レーザートーニング(QスイッチNd:YAG)とピコトーニング(ピコ秒レーザー)は、いずれも肝斑に対して慎重に用いられることがある低出力照射です。両者は主に「パルス幅」と「波長」が異なり、熱の伝わり方、PIHリスク、費用、通院回数に違いが出ることがあります。本記事では、比較研究のエビデンスをもとに、肝斑ではどちらを選ぶべきかを専門医監修で整理します。各治療の詳細は個別記事に譲り、ここでは「選び分け」に絞ります。
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「肝斑にはトーニングがいいですよ」と勧められたとき、レーザートーニングとピコトーニング、2つの名前が出てくることがあります。よく似た言葉ですが、使うレーザーの種類が違い、肌への当たり方も変わります。
美容医療アカデミーの編集長として情報を追ってきた立場から言えば、どちらも「肝斑を一気に消す魔法の治療」ではありません。だからこそ、雰囲気や費用だけで選ぶのではなく、両者が何を得意とし、何を苦手とするのかを正直に知ったうえで選んでほしいと考えています。
本記事では、レーザートーニングとピコトーニングの違いを比較研究のエビデンスをもとに整理し、肝斑にはどちらが向くのかを考えます。各治療の効果・回数・ダウンタイムといった詳細は個別記事に譲り、ここでは「選び分け」に絞って解説します。
そもそもトーニングとは?2つの共通点と「決定的な違い」

レーザートーニングもピコトーニングも、レーザーを「あえて低い出力で、広く・繰り返し」当て、刺激を抑えながらメラニンを少しずつ目立たなくする治療です。通常のシミ取りレーザーが「一気に壊す」のに対し、トーニングは「少しずつ薄くする」発想で、刺激に過敏な肝斑にも使える点が共通しています。
一方で、肝斑はメラニンだけの問題ではなく、血管・炎症・真皮環境もからむ慢性疾患です。そのため、メラニンを狙うトーニングは単独で完結する治療ではなく、内服・外用・紫外線対策という土台のうえで行う「補助的・仕上げ」の治療という位置づけになります。
そして、レーザートーニングとピコトーニングを分ける決定的な違いが、「パルス幅(照射時間)」と「波長」です。レーザートーニング単体の効果・回数・白斑リスクは「肝斑のレーザートーニングとは?効果・回数・ダウンタイムと白斑リスクを解説」、ピコトーニングの詳細は「ピコトーニングの効果はいつから?施術間隔やダウンタイムも解説」で解説しています。本記事は、その2つを「どう選び分けるか」に集中します。
違いの核心①|パルス幅(ナノ秒とピコ秒)

最大の違いは「パルス幅」、つまり1回の照射時間の長さです。レーザートーニングで使うQスイッチNd:YAGはナノ秒(10億分の1秒)単位、ピコトーニングで使うピコ秒レーザーは1兆分の1秒という、さらに桁違いに短い時間でメラニンにエネルギーを与えます。
照射時間が短いほど、熱が周囲に広がる前にメラニン色素を「砕く」ことができます。ナノ秒は熱でメラニンを壊す作用(光熱作用)が中心になりますが、ピコ秒は衝撃波に近い作用(光音響・光機械的作用)でメラニンを細かく砕く割合が増えるとされます。理論上、ピコ秒のほうが周囲の正常組織への熱ダメージが少なく、炎症後色素沈着(PIH)のリスクを抑えやすいと考えられています。
言いかえると、ナノ秒は「熱でじわっと薄くする」、ピコ秒は「短い衝撃で砕く」というイメージです。肝斑は熱の刺激で炎症が再燃しやすいため、この「熱の出方」の違いが、肌への負担の少なさや色素沈着の起こりやすさに影響すると考えられています。
ピコ秒レーザーを皮膚科領域で総括したシステマティックレビューでも、ピコ秒レーザーには一定の有用性が認められる一方、肝斑への推奨度は限定的で、あくまで補助的な位置づけにとどまることが整理されています【1】。「ピコ=最新だから万能」ではない、という点はおさえておきたいところです。
違いの核心②|波長と「メラニンへの当たり方」

もう一つの違いが「波長」です。レーザートーニングは主に1064nmのNd:YAGを使います。ピコトーニングは1064nmのピコ秒Nd:YAGに加え、755nmのピコ秒アレキサンドライトなど、複数の波長の機種があります。
波長が短いほどメラニンによく吸収され、表皮の色素に強く反応します。効果が出やすい反面、肝斑のように刺激に過敏な状態では表皮への負担が大きくなり、かえってPIHや悪化を招くこともあります。一般に、肝斑では深くまで穏やかに届く1064nmが選ばれやすく、755nmなどの短い波長は、肌質や色素の状態を見極めたうえで慎重に使う必要があります。
日本人を含むアジア人の肌(Fitzpatrick III〜IV型)はメラニンが多く、短い波長に反応しやすいため、波長の選択はとくに重要です。同じ「ピコトーニング」でも、1064nmと755nmでは肝斑へのなじみ方が変わる、という点は知っておくと選びやすくなります。
つまり「ピコトーニング」と一括りに言っても、機種・波長によって肝斑への向き不向きが変わります。機種名だけで判断せず、肝斑に合わせた波長・出力の設計ができる医師を選ぶことが大切です。ピコレーザー全体の種類やしくみは「ピコレーザーはシミ取りに効果ある?種類やダウンタイムも解説」をご覧ください。
効果はどちらが優れているか?直接比較したエビデンス
では、効果そのものはどちらが優れているのでしょうか。アジア人の肝斑を対象に、ピコ秒アレキサンドライトレーザーと従来のQスイッチNd:YAGを片側ずつの顔(スプリットフェイス)で直接比較した研究では、両者の改善度と色素沈着リスクが評価され、ピコ秒側の有用性が示されました【2】。
スプリットフェイスとは、同じ人の顔の左右で別の治療を比べる方法で、年齢や生活習慣の影響を受けにくく、機器どうしの差を見るのに適した設計です。条件をそろえて比べられるぶん、結果の信頼性が高いとされます。
また、ピコ秒Nd:YAG、ピコ秒アレキサンドライト、2%ハイドロキノン外用の3群を比較した評価者盲検のランダム化比較試験でも、各治療の有効性と安全性が検討されています【3】。これらの研究が示すのは、「ピコ秒レーザーが常に明確に優れる」という単純な結論ではありません。ピコ秒レーザーには、熱負荷を抑えやすいという理論的な利点がありますが、実際の効果や安全性は、波長、出力、照射間隔、肝斑の活動性、肌質によって変わります。
重要なのは、効果を左右するのは機種そのものよりも、肝斑を正しく診断し、出力・回数・間隔を適切に設計できるかどうかだという点です。最新機種を選べば自動的に結果が良くなるわけではありません。
安全性とリスクの違い|「やりすぎ」は両方で禁物

安全性の面でも違いがあります。レーザートーニングは、低出力でも回数やエネルギーを累積しすぎると、まだら状の白斑(脱色素斑)という難治性の合併症を招くことが知られています【4】。ピコトーニングは熱負荷が比較的少ないものの、決してリスクがゼロではなく、PIHや一時的な点状出血、赤みなどが起こりえます。
とくにピコトーニングは「熱が少ない=絶対に安全」という意味ではなく、設定や肌の状態によってはトラブルが起こります。「ピコだから安心して回数を増やせる」という考え方は禁物です。
共通して言えるのは、どちらも「やりすぎ」は禁物だということです。効果が頭打ちなのに焦って回数を重ねることが、最もリスクの高い使い方になります。レーザートーニングの白斑リスクの詳細は「肝斑のレーザートーニングとは?効果・回数・ダウンタイムと白斑リスクを解説」で詳しく解説しています。
費用・回数・通院ペースはどう違う?
費用や回数の傾向にも差があります。一般に、レーザートーニングは実績が豊富で費用を比較的抑えやすい反面、穏やかに効くため回数を要する傾向があります。ピコトーニングは機種が新しく費用は高めになりやすい一方、熱負荷を抑えた照射設計がしやすいと説明されることがあります。ただし、必要回数が必ず少なくなるわけではなく、肝斑の状態や反応によって異なります。
ただし、実際の費用・回数・間隔は、機種、肝斑の状態、クリニックの方針によって大きく変わります。どちらもダウンタイムは比較的軽いとされますが、具体的な回数や料金は、各治療の個別記事と実際のカウンセリングで確認してください。
【比較表】レーザートーニングとピコトーニング
| 比較軸 | レーザートーニング | ピコトーニング |
| パルス幅 | ナノ秒(10億分の1秒) | ピコ秒(1兆分の1秒) |
| 主な波長 | 1064nm(QスイッチNd:YAG) | 1064nm・755nmなど(機種により多様) |
| 作用の特徴 | 熱でメラニンを壊す(光熱作用が中心) | 衝撃波で砕く割合が増える(熱負荷は少なめ) |
| PIHの起こりやすさ | 比較的起こりうる | 理論上は抑えやすい傾向 |
| 費用の傾向 | 抑えやすい傾向 | 高めの傾向 |
| 回数の傾向 | 回数を要しやすい | やや少なめとされることも |
| 向く可能性があるケース | 費用を抑え、実績ある治療を選びたい人 | 熱負荷を抑えた設計を検討したい人。ただし、波長・出力・肌状態によってはPIHリスクがあるため慎重な判断が必要。 |
※これは「どちらが優れているか」のランキングではありません。肝斑では、機種の違い以上に、診断と照射設計が結果を左右します。
肝斑にはどちらを選ぶ?判断の4つの視点
以上を踏まえると、選び分けの軸は「どちらが優れているか」ではなく、「自分の肌と状況に合うのはどちらか」になります。次の4つの視点で考えると整理しやすくなります。
1)予算と通院ペース
費用を抑えて回数を重ねられるならレーザートーニング、費用より刺激の少なさを優先したいならピコトーニングが選択肢になります。
2)肌の敏感さ・PIHの起こしやすさ
これまで色素沈着を起こしやすかった人や敏感肌の人は、熱負荷の少ないピコトーニングが向きやすい傾向があります。
3)混在するシミの有無
肝斑にADMや老人性色素斑などが混ざっている場合、適した治療が変わります。まず「本当に肝斑か」を見極めることが先決です。シミの鑑別は「肝斑・老人性色素斑・そばかす・ADMの違いと見分け方|似て非なるシミの正しい診断」をご覧ください。
4)診断と照射設計
最終的には、機種名よりも、肝斑を正しく診断し、肌に合わせて出力・回数・間隔を設計できる医師を選べるかどうかが、結果を最も左右します。

レーザートーニングとピコトーニングは、どちらも肝斑の「仕上げ」を担う治療で、優劣を競うものではありません。私が診療で重視するのは、まず肝斑かどうかを正しく診断し、活動性(赤みや炎症)が落ち着いているかを見極めたうえで、低めの出力から慎重に始めることです。どちらを選んでも、回数を欲張れば白斑やPIHのリスクが上がります。「どの機械が最強か」ではなく、「いまの肌に、どの設定で、どこまで行うか」を一緒に決めていきましょう。

どちらを選んでも「土台」が要る|内服・外用・紫外線対策

忘れてはいけないのは、レーザートーニングもピコトーニングも、肝斑治療の「土台」ではなく「追加の選択肢」だということです。
基本は、通年の紫外線対策、こすらない摩擦レスのスキンケア、そして内服・外用治療です。肝斑治療では、炎症を抑える目的で内服トラネキサム酸が補助的な選択肢として用いられ、その有効性と安全性が総説でも整理されています(ただし血栓症リスクなどの禁忌確認が必要です)【5】。外用ではハイドロキノンなどが選択肢になります。
トーニングは、この土台を整えたうえで必要に応じて加える治療です。内服は「トラネキサム酸の効果は?肝斑などのシミ、出血性疾患の治療薬」、外用は「医師監修|ハイドロキノンは美白効果と安全性を考えて使おう!」、治療全体の進め方は「肝斑治療の進め方|内服→マイクロニードルRF→ピコトーニングの黄金ルートと選び方」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 結局、レーザートーニングとピコトーニングはどちらが肝斑に効きますか?
どちらも有効ですが、いずれも補助的な治療です。比較研究では、適切に使えば双方が効果を示します。ピコ秒レーザーには熱負荷を抑えやすい理論的利点がありますが、波長や設定によって結果は異なります。どちらかが常に明確に優れるわけではなく、診断と照射設計のほうが結果を左右します。
Q2. ピコのほうがPIHになりにくいなら、いつもピコを選べばいいですか?
必ずしもそうではありません。費用や通院回数、肌質、混在するシミの有無によって最適解は変わります。費用を抑えて実績ある治療をしたい人には、レーザートーニングが合うこともあります。
Q3. レーザートーニングとピコトーニングは併用できますか?
医師の管理下で使い分けることはありますが、自己判断で重ねると過剰治療になりがちです。どちらも刺激になり得るため、回数や間隔を含めて医師が設計することが前提です。
Q4. トーニングで白斑になることはありますか?
とくにレーザートーニングで、回数やエネルギーを累積しすぎるとまだら状の白斑(脱色素斑)が起こりえます。一度起こると戻りにくいため、効果が頭打ちのときに回数を増やさないことが大切です。詳細は「肝斑のレーザートーニングとは?効果・回数・ダウンタイムと白斑リスクを解説」で解説しています。
Q5. 効果はいつから、何回くらいで出ますか?
トーニングは1回では出にくく、複数回を重ねて少しずつ薄くしていく治療です。必要な回数や間隔は肝斑の状態や機種によって異なるため、各治療の個別記事とカウンセリングで確認してください。
まとめ

レーザートーニングとピコトーニングの違いは、突き詰めれば「パルス幅」と「波長」です。ピコ秒は熱負荷とPIHを抑えやすく、レーザートーニングは実績と費用面で利点があります。比較研究でも、どちらも適切に使えば有効で、ピコ秒レーザーが明確に優れるというわけではありません。
大切なのは、どちらが優れているかではなく、正しい診断と照射設計、そして内服・外用・紫外線対策という土台です。機種名で選ぶより、自分の肝斑に合うかどうかを、医師と相談しながら見極めていきましょう。肝斑治療の全体像は「肝斑の美容医療|レーザー・内服・RF治療の選び方と注意点」をご参照ください。
参考文献
本記事は、ピコ秒レーザーとQスイッチNd:YAGの肝斑への比較研究を参考に、専門医監修のもとで作成しています。すべての引用文献はPubMed等で原典を確認しています。
【1】Wu DC, Goldman MP, Wat H, Chan HHL. A Systematic Review of Picosecond Laser in Dermatology: Evidence and Recommendations. Lasers Surg Med. 2021;53(1):9-49.
PMID:32282094 doi:10.1002/lsm.23244
日本語要旨:皮膚科領域のピコ秒レーザーのエビデンスを網羅したシステマティックレビュー。肝斑への推奨度はレベルIIにとどまり、効果は限定的・補助的であること、過剰治療を避ける必要性を整理している。
【2】Lee MC, Lin YF, Hu S, et al. A split-face study: comparison of picosecond alexandrite laser and Q-switched Nd:YAG laser in the treatment of melasma in Asians. Lasers Med Sci. 2018;33(8):1733-1738.
PMID:29732522 doi:10.1007/s10103-018-2529-2
日本語要旨:アジア人肝斑に対し、ピコ秒アレキサンドライトレーザーと従来のQスイッチNd:YAGを片顔で直接比較した研究。改善度や色素沈着リスクの差を評価し、ピコ秒側の有用性を検討した比較エビデンス。
【3】Liang S, Shang S, Zhang W, et al. Comparison of the efficacy and safety of picosecond Nd:YAG laser (1,064 nm), picosecond alexandrite laser (755 nm) and 2% hydroquinone cream in the treatment of melasma: A randomized, controlled, assessor-blinded trial. Front Med (Lausanne). 2023;10:1132823.
PMID:37056729 doi:10.3389/fmed.2023.1132823
日本語要旨:肝斑に対しピコ秒Nd:YAG、ピコ秒アレキサンドライト、2%ハイドロキノンの3群を比較したランダム化比較試験。各モダリティの有効性と安全性を評価員盲検で検討し、トーニングの選び分けに資するエビデンスを提供。
【4】Wattanakrai P, Mornchan R, Eimpunth S. Low-fluence Q-switched neodymium-doped yttrium aluminum garnet (1,064 nm) laser for the treatment of facial melasma in Asians. Dermatol Surg. 2010;36(1):76-87.
PMID:20298254 doi:10.1111/j.1524-4725.2009.01383.x
日本語要旨:アジア人の肝斑に対する低フルエンスQスイッチNd:YAGレーザー(レーザートーニング)の効果と限界を検討した研究。一定の改善はみられるものの効果は一時的で、まだら状の色素脱失(白斑)や再発、リバウンド色素沈着のリスクがあることを示した。レーザートーニングの「やりすぎ」に注意すべき根拠となる。
【5】Bala HR, Lee S, Wong C, Pandya AG, Rodrigues M. Oral Tranexamic Acid for the Treatment of Melasma: A Review. Dermatol Surg. 2018;44(6):814-825.
PMID:29677015 doi:10.1097/DSS.0000000000001518
日本語要旨:肝斑に対する内服トラネキサム酸の有効性と安全性を総括したレビュー。プラスミン系を介して血管・色素産生を抑え、肝斑治療の土台となる内服として位置づけられることを示す。一方で血栓症リスクなどの禁忌確認が必要であることも整理されている。
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