ヒト幹細胞は、美容医療やコスメの世界にも広がっています。しかし、一体どんな効果があるのか、どのように活かしているのか、また、リスクなどについても知らない人は多いのではないでしょうか。今回は、ヒト幹細胞の種類や特徴をはじめ、美容効果やメリット・デメリットなどについて解説します。
平成15年 日本医科大学 卒業
平成16年 日本医科大学附属武蔵小杉病院 研修医/内科 専修医
平成21年~31年 善仁会丸子クリニック 院長勤務
令和元年5月 Alohaさおり自由が丘クリニック 院長
■保有資格
日本内科学会認定内科医
日本透析医学会、日本腎臓学会
点滴療法研究会
日本美容皮膚科学会
1.ヒト幹細胞とは?
ヒト幹細胞とは、ヒト由来の幹細胞です。
「自身と異なる新しい細胞への生まれ変わりと自分自身の再生を促進する細胞」のことです。
自身と異なる新しい細胞へ生まれ変わる能力を「分化能」、自分自身の細胞分裂を繰り返して再生を促進する能力を「自己複製能」と呼びます。
幹細胞と呼ぶためには、「分化能」と「自己複製能」の2つの能力が必要なのです。
幹細胞は、ヒト以外でも動物や植物にもあります。
しかし、ここではヒト幹細胞にフォーカスして話を進めます。
ヒト細胞の特徴や効果、はたらきを考える上でとても大切なのが、レセプターとリガンドです。
ヒトの幹細胞の表面には、決まった形をしたレセプター(受容体=カギ穴)があります。そして、特定のレセプターに合致した形で結合できるリガンド(カギ)があります。
リガンドには、成長や再生に必要な成分が豊富に含まれているため、細胞を活性化することで、体の再生やアンチエイジング、美肌効果が期待できるのです。
ヒト幹細胞を体の再生で応用したのが、再生医療です。「人の幹細胞そのものを不具合の生じた臓器や器官へ移植することで、病気になってしまった臓器を再生する技術」として日々研究されており、飛躍的な進歩を遂げつつあります。
2.ヒト幹細胞培養液の効果
美容医療の世界では、ヒト幹細胞培養液が注射などでよく使われています。また、ヒト幹細胞培養液を配合した化粧品も登場しています。
ヒト幹細胞培養液とは、幹細胞を取り出し、培養した後の培養液のことです。そして、幹細胞培養液から不要な成分を取り除いた純度の高いエッセンスが、「ヒト幹細胞培養上清液」です。
幹細胞そのものは入っていませんが、幹細胞から分泌された成長や再生のための成分(成長因子やたんぱく質)が含まれています。
成長因子には、EGF(上皮成長因子)やFGF(線維芽細胞増殖因子)をはじめ、たくさんの種類があります。成長因子以外にも、百種類以上の活性物質が含まれています。
美容医療やエイジングケア化粧品に用いられるのは、主にヒト幹細胞培養上清液で、その中に含まれる成長因子やたんぱく質などが美肌効果やアンチエイジング効果の源なのです。
また、たんぱく質や核酸、脂質などの成分を内包し、細胞間の情報伝達に関わる物質であるエクソームを含んでいいます。そのため、幹細胞培養液注射エクソソーム注射と呼ばれることもあります。
<ヒト幹細胞が分泌する成長因子(サイトカイン)の種類と主なはたらき・効果>
成長因子(サイトカイン)の種類 | 主なはたらき・効果 | |
---|---|---|
PDGF | 血小板由来成長因子 | 線維芽細胞の増殖を促進、損傷組織の増殖・再生 |
TGF–β,β3,TGF-α | トランスフォーミング成長因子 | 抗炎症、創傷治癒 |
HGF | 肝細胞増殖因子 | 組織再生促進 |
CNTF | 毛様体神経栄養因子 | 神経幹細胞の増殖促進・活性化 |
GDNF | グリア細胞株由来神経栄養因子 | 神経細胞の分化・成長、ドーパミンの取り込み促進 |
NGF | 神経成長因子 | 老化防止、パーキンソン病・アルツハイマー病の予防 |
BDNF | 脳由来神経栄養因子 | 神経細胞の生存維持・成長促進 |
VEGF | 血管内皮細胞増殖因子 | 育毛、発毛 |
FGF | 線維芽細胞増殖因子 | 線維芽細胞の増殖を促進 |
EGF | 上皮成長因子 | 表皮のターンオーバーの正常化、くすみ・シミ予防 |
KGF | ケラチノサイト成長因子 | 育毛、発毛 |
IGF | インスリン様成長因子 | 皮膚再生、シワの改善、ハリ等の弾力の再生、育毛 |
<参考記事>
EGF(ヒトオリゴペプチド-1)の化粧品としての効果と安全性
FGF(Fibroblast Growth Factor=線維芽細胞増殖因子)とは?特徴とはたらき
エクソソーム(幹細胞培養上清液)点滴の効果とデメリットや費用
3.ヒト幹細胞の種類と特徴
現在、美容医療や化粧品で使われているヒト幹細胞にはたくさんの種類があります。
美容医療やコスメでもっともよく使われるのは、ヒトの脂肪由来の幹細胞です。また、最近ではヒトの臍帯血由来や骨髄由来のヒト幹細胞もあります。
いずれもヒトの組織から得られる幹細胞なので、安全性も高いとされています。
1)ヒト脂肪由来幹細胞
ヒトの皮下組織の脂肪細胞に由来する幹細胞です。皮下脂肪から多くの幹細胞を確保できるため、現在、医療や美容において頻繁に使われています。
2)ヒト臍帯血由来幹細胞
臍帯(さいたい)とはへその緒のことです。へその緒を流れる血液には、胎児の成長に必要な幹細胞が大変多く含まれています。
出産時にしか採取できないため、希少性が高い点や含有している成長因子(サイトカイン)の量が多いことが特徴です。特に、若返り因子と呼ばれるGDF-11が豊富です。
3)ヒト骨髄由来幹細胞
ヒトの骨髄に由来する幹細胞です。骨髄幹細胞はあらゆる幹細胞の基となるため、最も分化能が高く、その培養上清液にも極めて多くの成長因子(サイトカイン)、エクソソームが含有されていることが報告されています。
4)そのほかの幹細胞
今、紹介した3つ以外でも、幹細胞には羊水や線維芽細胞、歯髄、脳の海馬などに由来するものがあります。
4.ヒト幹細胞培養液の美容効果とは?部位ごとに解説
ヒト幹細胞培養液は、美容にどのような効果が見込まれるのでしょうか。これは使用する部位によっても変わってきます。ここでは、肌と頭皮に分けて詳しく解説していきます。
1)肌:弾力アップ・シワ改善・美白・抗酸化作用が期待できる
ヒト幹細胞の培養液は肌の弾力アップ・シワ改善・美白、そして抗酸化作用の効果が期待できます。培養液に含まれる成長因子や活性物質によって、コラーゲンやエラスチンといった成分が増加し、肌の弾力がアップします。また、シワも改善されてハリのある肌となります。
ほかにも、ヒアルロン酸も増加することで、うるおいに満ちた肌へと導きます。このように、ヒト幹細胞の美容効果は、私たちの肌に大きな効果をもたらします。
2)頭皮:発毛・増毛・白髪予防が期待できる
培養液に含まれる成長因子には、頭皮の環境を整える成分が含まれています。毛髪を成長させる毛母細胞にもはたらきかけることができるため、育毛や頭皮環境の改善や白髪の抑制に効果が期待できます。ただし、育毛については、効果を実感するまでに3カ月ほど時間がかかります。ある程度継続して治療・施術を行う必要があるので、医師に確認しておきましょう。
5.培養液を配合した「ヒト幹細胞コスメ」も増えている
最近では、ヒト幹細胞培養液を配合した「ヒト幹細胞コスメ」も登場し、徐々に浸透してきています。スキンケアをはじめとした化粧品や、エステでも使われるようになってきました。一体どんなものなのか、気になっていた人もいるのではないでしょうか。ここでは、どのような化粧品があるのかについてご紹介します。
1)化粧水・美容液・パックなどのコスメがある
先ほども説明したとおり、幹細胞から分離し、さまざまな処理を行ったものが培養液(上澄み液)です。この培養液には、肌にとって良い効果をもたらすコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などの成分を増やす成長因子(サイトカイン)が豊富です。
培養液を使用したコスメには、化粧水や美容液、パックなど、さまざまな種類があります。販売しているものの中には、高価なものと安価で手に入れやすいものなど種類も多いため、気になっている方はぜひチェックしてみてください。
<参考記事>
美意識の高い30代~50代女性のエイジングケアとヒト幹細胞培養液
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2)ヒト幹細胞そのものが含まれるわけではない
「ヒト幹細胞コスメ」という名前から、幹細胞が含まれていると考え、「気持ち悪い」と思うかもしれませんが、「ヒト幹細胞コスメ」に幹細胞そのものは含まれていません。あくまでも培養液を配合したコスメであり、スキンケアの効果を高めるためのお手伝いをしてくれる商品です。ほかの美白成分などと同様に「お肌にいい成分として培養液が配合されている化粧品」です。
6.美容にヒト幹細胞を用いる3つのメリット
美容にヒト幹細胞を用いるとどんなメリットがあるのでしょうか。ここでは主に3つのメリット、「さまざまな効果が実感できる」、「親和性が高く副作用が出にくい」、「動物や植物の幹細胞よりも効果が高く安全」という点について、それぞれ解説します。
1)さまざまな美肌効果が実感できる
ヒト幹細胞培養液には、さまざまな成長因子をはじめ、肌に良い成分が含まれています。
そのため、肌のターンオーバーを整えることによって、さまざまな肌悩みを予防・改善することが可能です。また、真皮の線維芽細胞にはたらきかけ、肌老化を予防します。
これが大きなメリットです。
2)親和性が高く副作用が出にくい
2つ目メリットは「ヒト幹細胞は親和性が高く、副作用が出にくい」ということです。ヒト幹細胞は、ヒト由来のものであり、人の細胞から採取したものでできているため、わたしたち人間の皮膚との親和性は非常に高く、なじみやすいのが特徴です。
また、ヒト幹細胞培養液の使用において、これまで重篤な副作用が出たという報告はありません。リスクが100%ないと断言することはできませんが、美容医療や化粧品での使用では安全性が高いといえます。
美容医療では、医師のカウンセリングや診察を受けることができます。
また、美容液などの化粧品の使用については、使用上の注意を守って使用していれば、副作用のリスクはほとんどないといえます。
3) 動物や植物の幹細胞よりも効果が高く安全
植物幹細胞は、動物幹細胞に比べてアレルギーが少なく、安全に使用できるのがメリットですが、ヒト幹細胞にあるレセプターとリガンドのような仕組みはありません。そのため、効果が限定的です。また、コスメでは使えますが、美容医療では使えません。
一方、動物幹細胞には、ヒト幹細胞と同じような効果が期待できる可能性はありますが、アレルギー反応が起きる可能性も十分にあり、安全性の観点から、国内では流通していません。
このようにヒト幹細胞は、植物や動物の幹細胞よりも効果や安全性の面で優っている点がメリットです。
7.ヒト幹細胞は危険?2つのデメリット
ヒト幹細胞のメリットについて説明してきましたが、中には「危険はないのだろうか?」、「デメリットがあるなら知っておきたい」という人もいるのではないでしょうか。ここでは、ヒト幹細胞でよく聞かれる危険性やデメリットについて解説します。
1)高価格である
デメリットの1つめは、一般的な医療も美容医療、コスメも高価格であることです。
ヒト幹細胞については、まだまだ研究が世界中で進められている研究途上の一面も持っています。今後の医療・美容分野での大きな可能性が見込まれる反面、まだ研究過程にあるのも事実です。
そのため、ヒト幹細胞培養液などを配合した化粧品や美容治療については、まだまだ始まったばかりといえます。生産コストについても、安定して大量生産できるというところまでは至っていません。オーダーメイドに近い部分もあるため、生産に多大なコストがかかり、高価格となっています。今は、セレブなど富裕層が恩恵にあずかっている一面も否めないのです。
また、ヒト幹細胞の治療は、保険診療ではなく自由診療です。また、ヒト幹細胞の培養費用や管理費用も高額となり、経済的負担が大きいため、現段階ではすべての人が受けられる治療というわけではありません。
2)新しい治療法や成分のためリスクが不透明
デメリットの2つめは「新しい治療法や成分のためリスクが不透明」であることです。ヒト幹細胞の治療において、現在大きく健康を損なうような副作用やリスクは見つかっていません。また、ヒトとの親和性からも基本的には安全であると考えられています。しかし、研究途上であるため、将来予期しないことが起こる可能性も0%とはいえません。
8.ヒト幹細胞に関するよくある質問
ヒト幹細胞について、よくある質問をいくつかピックアップしました。
Q1.ヒト幹細胞培養液は誰の細胞を使っているの?
ヒト幹細胞を美容などに使う際、気になるのが「誰の細胞を使っているのか?」ということではないでしょうか。ヒト幹細胞は当然人間から採取されるわけですが、コスメに使用している幹細胞は、細胞を提供するドナーのものを使用しています。
ドナーは化粧品原料メーカーによっても違いますが、主に20代〜30代前半くらいの健康な女性から選定していることが大半です。ドナーがウイルスや細菌に感染していないか、慢性疾病(アレルギー)などを持っていないかなど、とても詳細な検査を何度も実施しています。厳しい検査を経て、初めてドナーの組織を採取します。その後、幹細胞だけをフィルタリングして、培養していくのです。
培養する段階でも、何度も厳しい検査をして安全性に問題がないかのチェックを重ね、合格したものだけを使っています。
Q2.ヒト幹細胞培養液とプラセンタエキスとの違いは?
プラセンタエキスも、肌のアンチエイジング治療によく使われており、ヒト幹細胞との違いがわからないという方も多くいると思います。
ヒト幹細胞コスメに含まれている培養液もプラセンタエキスも、豊富な成長因子(サイトカイン)を含んだ成分ですが、採取する場所や抽出方法、処理方法が違います。次の表を確認してください。
<ヒト幹細胞培養液とプラセンタエキスの違い>
ヒト幹細胞培養液 | プラセンタエキス | |
採取をする場所 | 人間の皮下脂肪・臍帯血・骨髄・歯髄・皮膚など | 馬、羊、豚などの家畜の胎盤を使用(人間の胎盤は医療分野のみで使用可能) |
抽出方法 | ヒト幹細胞を培養した培養液 | 胎盤を加水分解してエキスを抽出 |
加熱処理 | なし | あり |
これまで説明してきたように、ヒト幹細胞コスメには幹細胞そのものは含まれていませんが、成長因子(サイトカイン)は豊富です。
一方、プラセンタは、ヒトの胎盤由来のものは、医療用としての使用しか現状では認められていません。そのため、化粧品やサプリメントには、人間以外の家畜(馬、羊、豚など)の胎盤を使用しています。
また、処理方法も異なります。プラセンタは動物から抽出された細胞のため、細菌やウイルスなどが懸念されます。化粧品やサプリメントで使用する際には殺菌・減菌のために加熱処理を施さなければならず、細胞の活性化に必要な成長因子(サイトカイン)が加熱されることで分解される可能性があります。
加熱処理によって分解・変性をおこした成長因子は、本来の能力が発揮できず、ヒト幹細胞培養液に比べると効果は低くなります。
<参考記事>
プラセンタ注射の効果が出るまではどれくらい?効果的な打ち方も解説
Q3.ヒト幹細胞コスメは何歳から使える?
ヒト幹細胞コスメには、年齢による使用制限はないため、10代や20代など若くても使用可能です。
しかし、高価なコスメが多く、自分の肌の自己修復機能が高い場合は、使う必要はありません。一般的に第一のお肌の曲がり角が来るといわれている、20代半ばから後半にかけて使い始めるといいのではないでしょうか。もし、クリニックで治療を受けている場合は、医師に相談してみてください。
Q4.ヒト幹細胞培養液はシミに効果がありますか?
ヒト幹細胞培養液には、ターンオーバーの促進作用や抗炎症作用があります。そのため、シミを予防・改善する効果が期待できます。
しかし、ヒト幹細胞培養液は、厚生労働省で認可を受けた美白成分ではありません。すでに濃くなってしまったシミを改善するためには、医療機関でヒト幹細胞を用いた治療を受けたり、ほかのシミ取り治療を受けましょう。
Q5.幹細胞は危険ではありませんか?
美容医療や化粧品で使われる幹細胞培養液は、厚生労働省が定めている基準に則って製造されていいます。また、化粧品に関しては、現在のところ大きな副作用の報告はありません。したがって、危険はないと考えられています。
一方、美容医療では最近、死亡例が初めて報告されました。しかし、患者背景や因果関係の有無は報告されていないため詳細は不明です。
こうしたケースは、従来は無く極めて稀な例です。
Q6.成長因子とサイトカインとは何ですか?違いはありますか?
サイトカインは、細胞に対して何らかの情報を伝達するタンパク質の総称です。通常は分泌する細胞の近くにいる細胞や、分泌する細胞自身に情報を伝達します。
現在は、初めて発見されたサイトカインは、インターフェロンで現在、数100種類が発見されています。
サイトカインの中で、特に細胞を増殖させたり分化を促進させる機能を持つものを「成長因子」または「増殖因子」(growth factor)と呼びます。
9.まとめ
ヒト幹細胞の特徴や種類、美容効果やメリット・デメリット、そしてヒト幹細胞コスメについて解説してきました。何となく聞いたことがあっても、詳しい内容を知らなかったという人も多いかもしれません。
今後、大きな可能性を秘めているといわれるヒト幹細胞は、医療分野でも発展が期待されています。一方、美容医療や化粧品など美容分野では、ヒト幹細胞培養液がアンチエイジングやエイジングケア、美肌のために使われています。
ヒト幹細胞の効果が気になる方は、「ヒト幹細胞培養液注射」や「ヒト幹細胞コスメ」を取り入れてみるのはいかがでしょうか。
心配な場合は美容クリニックで相談するなど、医師や専門家に相談しましょう。
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