
「飲み薬の副作用が心配」「今の治療では効果が実感できない」──そんな悩みを抱えていませんか?
AGA治療の選択肢として近年注目を集めているのが「PRP療法」です。
自分自身の血液から抽出した成長因子を頭皮に注入するこの治療法は、再生医療の技術を応用した新しいアプローチとして、従来の薬物療法とは異なる可能性を秘めています。
しかし、「本当に効果があるのか」「どんなリスクがあるのか」「費用はどれくらいかかるのか」──気になることも多いはず。
実際、研究データを見ると期待できる結果が報告されている一方で、まだ標準治療として確立されていないという現実もあります。
この記事では、最新研究を含む医学的根拠をもとに、PRP療法の効果や安全性、他の治療法との違いを客観的に解説します。あなたに合った治療法を選ぶための、確かな判断材料を提供します。
1.PRP療法とは?AGAの新しい選択肢として注目される理由

薄毛に悩む方にとって、効果的で安全な治療法を見つけることは切実な願いです。
近年、AGA(男性型脱毛症)治療の選択肢として「PRP療法」が注目を集めています。
PRP(Platelet-Rich Plasma:多血小板血漿)療法は、患者自身の血液から抽出した血小板を濃縮し、成長因子を含む血漿を頭皮に注入する再生医療アプローチです。
血小板のα顆粒から放出されるTGF-β、PDGF、VEGF、EGF、IGF-1などの成長因子が、毛包や毛母細胞に直接働きかけ、発毛を促すメカニズムを持っています。
自己血液由来であるため、免疫拒絶反応や重篤なアレルギー反応のリスクが低いという大きな利点があります。
一方、PRPの調製法や濃度、注入方法は研究間でばらつきがあり、まだ標準化されていないという課題も存在します。
<参考記事>
AGAの原因は遺伝以外に何がある?ストレスや生活習慣による影響
AGAの初期症状とは?いつから脱毛が始まるのか段階ごとに解説!
AGA治療は効果がない?効果なしと言われる理由とともに実態を紹介
2.PRP治療の効果はどれくらい?最新エビデンスから見る
1)臨床研究が示す改善データ

2024年に発表された「The role of platelet‐rich plasma in androgenetic alopecia: A systematic review(Donnelly et al.)」という医学論文では、8件のランダム化比較試験と1件の前向きコホート研究、合計約291名を対象にした解析が行われました。
このシステマティックレビュー(J Cosmet Dermatol)では、毛密度の有意な改善が6件の研究で、毛髪本数の有意な増加が5件の研究で報告されています。
ただし、評価法(フォトトリコグラム、毛径測定など)や活性化方法(CaCl₂、トロンビンなど)に研究間でばらつきがあり、手技の異質性などによるバイアスのリスクも指摘されています。
結論の確実性は中等度〜低とされており、「確実な結論を導くにはさらなる高品質研究が必要」という慎重な見解も示されています。
今後はプロトコールの標準化と長期追跡が課題とされています。
2)効果が現れるまでの期間と持続性
多くの臨床報告によると、PRP治療の効果は3〜6ヶ月程度で改善傾向が見られ始めるケースが多いとされています。
即効性は期待できず、緩やかな効果発現を期待する治療として理解する必要があります。
効果の持続性については、Gentileらの追跡研究で2年後には一部の症例で徐々に脱毛傾向が戻ったケースも報告されており、定期的な追加施術が必要になる可能性が示唆されています。
3)どんな人に効果が出やすい?
複数の研究から、以下のような傾向が明らかになっています。
- 初期〜中等度のAGAで毛包がまだ残存している例で良好な反応
- 進行度が低い例(ノーウッド・ハミルトン分類III〜V程度)で反応が良い傾向
- 重度の脱毛例では効果が乏しい可能性
つまり、毛包が完全に消失してしまう前の段階での治療開始が重要といえます。
<参照論文>
3.PRP療法の安全性と副作用リスク
1)報告されている副作用
PRP療法で一般的に報告される副作用は、以下のような局所的な反応です。
- 注入部位の痛み
- 腫れや赤み
- 痒み
- 点状出血
重篤な合併症はほとんど報告されていません。
いくつかの研究で局所痛みが報告されているものの、無麻酔のケースを含めて重大な有害事象は報告されていない点が強調されています。
2)注意が必要なケース

以下のような方は、PRP療法の適応を慎重に判断する必要があります。
- がん治療中の方
- 感染症の疑いのある方
- 発熱のある方
- 妊娠しているまたは妊娠の可能性がある方
- 心臓病や脳梗塞の既往歴がある方
- 血液疾患(血小板異常、凝固異常など)がある方
- 抗凝固薬を服用中の方
- 出血傾向が強い方
- 重篤な全身疾患を合併している方
- 過去1カ月以内にPRP治療を受けたことがある方
特に注意が必要な点として、抗凝固薬やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を服用中の方は、血小板機能が抑制され、PRP療法の効果が減弱する可能性があります。
3)日本における規制
PRP療法は、血小板などの細胞を含むため「再生医療等安全性確保法」において第2種、第3種再再生医療等技術に該当します。
そのため、クリニックには所定の手続き(再生医療提供計画の提出、施設認可、加工施設の管理など届出・管理体制)が求められています。
施術を受ける際は、適切な認可を受けた医療機関を選ぶことが重要です。
4.PRP療法と他のAGA治療との比較
1)主なAGA治療法の比較
| 治療法 | PRP療法 | ミノキシジル | フィナステリドデュタステリド | 自毛植毛 |
| 作用機序 | 成長因子による毛包刺激 | 血管拡張、毛母細胞活性化 | DHT産生抑制 | 健常毛包の移植 |
| 効果発現 | 3〜6ヶ月 | 3〜6ヶ月 | 6ヶ月〜1年 | 半年〜1年 |
| 効果継続 | 定期的な追加治療必要 | 継続使用が前提 | 継続使用が前提 | 定着後は長期持続 |
| 副作用 | 局所反応(軽度) | 頭皮の痒み、刺激感 | 性機能低下の可能性 | 手術リスク、創部感染 |
| 費用 | 1回数万〜10万円 | 月数千円程度 | 月数千円程度 | 数十万〜百万円規模 |
| 適応 | 初期〜中等度 | 広範囲な薄毛 | ホルモン 感受性例 | 進行した脱毛 |
2)PRP療法が選ばれるケース
- 内服薬や外用薬で効果が不十分だった方
- 内服薬の副作用を避けたい方
- 薬物療法との併用で相乗効果を狙いたい方
多くのクリニックでは、ミノキシジルやフィナステリドなどの薬物療法と併用することで、相乗効果を期待する治療戦略を採用しています。
一方、現在のエビデンスレベルでは、PRPが「単独治療として第一選択」となるには根拠が不十分であり、あくまで補助的・選択的治療の位置づけとする見方が主流です。
そのため、日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年改訂版)」では、PRP療法を推奨度C1(行ってもよいが、十分な根拠がない)としています。この分類は、エビデンスレベルが中等度〜低であることを示し、標準治療として確立されていないことを意味します。
<参照元>
5.AGAのPRP治療の実際の流れ
1)施術の手順
- カウンセリング・診察脱毛の進行度、既往歴、他治療との併用可否などを確認
- 採血(通常10〜20mL程度)患者自身の血液を採取
- 遠心分離・血小板濃縮専用のキットで血小板を濃縮(条件により濃度が変動)
- PRPの完成複数のサイトカインを含むPRP製剤の完成。CaCl₂、トロンビン、ヒドロキシアパタイトなどを用いて活性化(手技により差がある)
- 頭皮への注入マイクロニードルやメソガン(針注射)で頭皮に注入
- 注入深度:約1.5〜2.5mm(真皮上層〜中層)
- 注入間隔:1cmグリッド間隔
- 総注入量:2〜4mL(頭頂・前頭部に分割)
- アフターケア施術当日は激しい運動、入浴、サウナなどを避ける
- 追加施術・維持治療効果維持のため、6ヶ月〜1年ごとに再注入を行うのが一般的
2)治療頻度の目安

多くの論文やクリニックでは、初期治療として月1回〜2ヶ月おきに3〜6回程度をワンクールとし、その後効果維持のために定期的な追加注入を行うケースが一般的です。
3)効果発現のタイミング
AGA治療におけるPRP療法の効果発現は、一般的に治療後6ヶ月程度で顕著な毛量増加が見られ始め、それまでに数回の施術を1ヶ月間隔で行うことが推奨されます。
治療後1〜2週間で産毛の増加や抜け毛の減少を実感する人もいますが、効果には個人差があります。PRPに含有される成長因子が毛母細胞を活性化させ、血流を改善することで毛髪再生を促します。
4)効果の持続性
AGAへのPRP療法の効果持続期間は個人差が大きいですが、一般的には数ヶ月から数年程度で、継続的な治療で効果を維持・積み重ねることが可能です。
効果の期間は体質やAGAの進行度によって異なりますが、定期的な治療で自然な発毛・育毛効果を長く期待できます。
6.次世代PRP療法とは?
1)PRP療法の課題
PRP療法には以下の課題があります。
- 血小板濃度や採血条件による効果のばらつき
- 細胞を含むため感染・炎症リスクがゼロではない
- 採血後すぐに使用しなければならず保存が難しい
また、クリニックでは遠心分離機の導入などで投資やスペースが必要となり、導入のハードルが高いです。
そのため、AGAでPRP療法が受けられるクリニックは多くありません。
2)次世代PRP療法
こうした課題を改善したのが「次世代PRP療法」です。
自己血液由来の無細胞(cell-free)成長因子抽出療法の一種で、PRP療法の課題(濃度のばらつき・保存性・感染リスク)を改善することを目的に開発されたcell-free再生因子療法の総称として用いられることもあります。
次世代PRP療法は、自己血液から細胞成分(血球や血小板)を完全に除去し、無細胞化(cell-free)した上清から、成長因子・サイトカインなどの生理活性物質を抽出・濃縮する治療法です。
V特徴は、次の通りです。
- 無細胞製剤のため、再生医療等安全性確保法の届出は不要
- 感染リスク・免疫拒絶がほぼゼロ
- 成長因子(EGF、FGF、HGF、IGF、VEGFなど)を多種類含む
- 血小板に限定せず、より広い再生因子群を活用できる
また、専門の企業が、血液検査や血液加工、凍結乾燥を請け負うため、クリニックは遠心分離機が不要で採血と注入を行うだけで治療が可能です。また、半年間の保管も可能です。
一方、通常のPRP療法のように当日に製作できないため、別の日に治療を受ける必要がある点がデメリットです。
3)PDF-FD療法とPFC-FD療法
次世代PRP療法には類似名称の製剤が複数存在しますが、提供企業・加工技術が異なります。
①PDF-FD療法(セルプロジャパン株式会社)
Platelet-Derived Factor Freeze-Driedの略称で、セルプロジャパン株式会社が開発・提供する血小板由来因子の凍結乾燥型製剤サービスです(「PDF-FD®」は同社の登録商標)。
採血した血液から血小板を破砕して成長因子を抽出し、それを凍結乾燥(Freeze-Dry)により粉末化します。
使用時に再溶解して関節や頭皮・皮膚など患部に注入します。
常温でも長期保存が可能で、無細胞製剤(cell-free)のため、再生医療法の届出不要です。現在、AGA治療以外にも整形外科領域や美肌治療などにも使われています。
②PFC-FD™療法(セルソース株式会社)
血小板由来因子(Platelet-Derived Factor)を抽出・凍結乾燥した製剤です。
受託加工型で、長期保存・高い安定性を特徴とします。
両者は似た略称を持ちますが、別会社・別製法による製剤であり、成分組成・加工工程が異なります。
5)法規制上の扱い
PRP療法は血小板などの細胞を含むため「再生医療等技術」に該当し、施設の届出・審査・倫理体制が必要です。一方、PFC-FD、PDF-FDは無細胞化された製剤であるため、同法の規制対象外(届出不要)となります。
ただし、成分中に細胞残存が確認される場合は届出が必要になるため、医療機関は製造証明や分析データの確認が求められます。
<参照元>
CellSource:PFC-FD™(無細胞・凍結乾燥・保存性/特許)
Cellpro Japan:PDF-FD(無細胞・凍結乾燥・技術開発情報)
8.AGAのPRP治療法に関するよくある質問(FAQ)
Q1.どのくらいで効果が出ますか?
多くの報告で3〜6ヶ月ほどで改善傾向を認める例が多く、1年程度で毛密度・本数の有意な差を示す研究もあります。ただし即効性は期待できず、個人差が大きいため「遅効性治療」として理解すべきです。
Q2.何回・どの頻度で受けるのが適切ですか?
初期治療として月1回〜2ヶ月おきに3〜6回程度をひとクールとし、その後効果維持のために6ヶ月〜1年ごとの追加注入を行うケースが多いです。
Q3.どのような人が向いていて、向かないのですか?
向いている人
- 初期〜中等度のAGAで毛包がまだ残っている方
- 薬物療法で効果不十分だった方
- 内服薬の副作用を避けたい方
向かない可能性がある人
- 重度脱毛で毛包がほとんど消失している方
- 血液疾患や出血リスクが高い方や抗凝固薬使用中の方など適応ができない方
Q4.副作用はありますか?ダウンタイムは?
一時的な局所の赤み、腫れ、痛み、出血斑、痒みなどは比較的よく報告されますが、重篤な合併症はほぼ報告例がありません。
施術当日は過度な運動・入浴・飲酒など血行促進行為を避けた方が無難です。
Q5.もし効果が出なかったらどうする?
追加延長治療を継続するか、ミノキシジルやフィナステリドなど他治療との併用を検討します。効果が見られない場合は、自毛植毛など別のアプローチも視野に入れることになります。
Q6.治療費はどれくらい?保険は適用されますか?
多くの場合、自費診療であり、1回あたり数万円〜10万円台前半が一般的な目安です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、PRPは保険適用外の「未承認治療」とされており、保険適用対象外である点を理解しておく必要があります。
9.まとめ:PRP療法を選ぶ前に知っておくべきこと
PRP療法は、自己血液由来の成長因子を利用して毛包・毛母細胞を刺激する再生医療的アプローチで、比較的安全性が高く、脱毛治療の選択肢として注目されています。
現在のエビデンスでは、毛密度や毛数の改善が複数研究で報告されており、有効性の可能性が示唆されていますが、研究間のプロトコールのばらつきやバイアスの懸念も残っており、「確固たる標準治療」として位置づけられるにはまだ限界があります。
日本皮膚科学会の2017年版ガイドラインでは、PRPは推奨度C1として扱われており、エビデンスレベルが中等度〜低であることを示しています。
一方、クリニック実務では軽中度症例での良好な反応例が多く報告されており、他治療との併用や維持治療戦略を組み込んだ実践的使用が広まりつつあります。
また、最近では再生医療に分類されない次世代PRP療法が新たな選択肢として登場しています。
PRP療法や次世代PRP療法を検討する際は、信頼できる医療機関で十分なカウンセリングを受け、自分の症状や希望に合った治療法かどうかを慎重に判断することが大切です。
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