梅毒が増えている!原因・症状と予防・検査・治療法は?

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梅毒は、梅毒トレポネーマという病原体による感染症。主に性的な接触で口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。感染後、3~6週間程度の潜伏期を経て全身にさまざまな症状を引き起こし、最悪の場合は死に至ることも。この記事では、最近増えている梅毒の原因・症状と予防・検査・治療法をご紹介します。
本記事の監修医
中浜医院 院長 中浜 力 先生

中浜医院

院長 中浜 力 先生

日本感染症学会評議員
・認定内科医
・感染症専門医・指導医
・院内感染専門医(ICD)
一般内科や小児科を診療されていて、特に呼吸器疾患(胸の病気、咳、息切れ、喘息など)や感染症(発熱、風邪、気管支炎、肺炎、各種化膿症など)をご専門とされています。
論文執筆や学会活動など学術的に幅広く活動されているだけでなく、地域医療にも非常に力を入れられていて、ご自分のクリニックを中心に100m範囲に住んでおられるご家族3世代の健康全てに責任を持つ覚悟で、お父様からクリニックを継がれました。
日本呼吸器学会の「成人市中肺炎診療ガイドライン」に、プライマリケア医の立場から制作に参画
■病院情報
大阪市旭区中宮2-15-3
TEL:06-6951-0759
大阪メトロ 谷町線「千林大宮駅」から徒歩10分です。

1.梅毒とは?

梅毒は、近年、急増している性病です。

1940年代以降にペニシリンによる治療法が普及してからは、早期に適切な治療を受ければ完治が可能になったことから、平成22年まではおおむね減少傾向にありました。

しかしその後、インバウンドによる感染流入の影響で患者数が急増し、今では大きな社会問題となっています。

 

梅毒は梅毒トレポネーマという病原体による感染症で、主に性行為によって感染します。

症状としては、性器や口の中に小豆から指先くらいのしこりができたり、痛み、かゆみのない発疹が手のひらや体中に広がることがあります。また治療をしないまま放置していると、数年から数十年の間に大動脈炎、大動脈瘤、ゴム腫形成、鞍鼻(あんび)を発症するなど、心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じることがあります。

症状が軽くなったり消えたりする時期があるため、発症したことに気づきにくく、治療の遅れによる重症化や感染拡大につながりやすいことが大きな問題となっています。

梅毒は、皮膚、粘膜の発疹や臓器梅毒の症状を呈する「顕症梅毒」と、症状は認められないが梅毒血清反応が陽性である「無症候梅毒」があります。

そして梅毒には、次のような特徴があります。

  • コンドームなどの避妊具の適切な使用で感染リスクを減らすことができる
  • 梅毒に感染している母親から妊娠・出産時に子供に感染することもある
  • 感染すると、3~6週間程度の潜伏期を経て、様々な症状が現れる
  • 早期治療で完治するが、治療が遅れると最悪、死に至ることもある
  • 再感染を予防する免疫は得られないため、完治した後も再度感染する可能性がある

この記事では、そんな梅毒の原因や症状から予防法、検査、治療までを幅広くご紹介します。

<監修医のメッセージ>
梅毒は、梅毒トレポネーマという病原体による性感染症の1つです。近年、感染者が急増していることから、社会的な影響が懸念されています。

そのため、厚生労働省や感染症関連の医学会、専門医が予防や検査促進の啓発活動に注力しています。

なぜなら、梅毒は感染に気づきにくいことから、治療の遅れや感染拡大につながりやすい危険な感染症だからです。

梅毒による被害や感染の拡大を食い止めるためには、一般の方の正しい理解や行動が大切です。

この記事を参考に、梅毒の予防や早期発見、早期治療に努めていただければ幸いです。

2.梅毒の原因と感染経路

梅毒の原因は、梅毒トレポネーマ(Treponema palidum subspecies pallidum(T.p.))という病原体です。

 

梅毒トレポネーマは、感染者の皮膚や粘膜、血液、体液に潜んでいます。

たとえば、傷口からの浸出液、精液、膣分泌液などの体液の中にいます。

 

ですから、主に感染部位と他人の粘膜や皮膚が直接接触することによって感染します。

実際には避妊具を使用しない性器と性器、性器と肛門(アナルセックス)、性器と口(オーラルセックス)などの性行為が感染原因となります。

潜伏期間は3~6週間です。

 

また、感染している母体から胎児に感染することもあります。

主に性行為によって感染した梅毒は「後天梅毒」と呼ばれます。一方、胎児が母体内で胎盤を通して感染したものは「先天梅毒」と呼ばれます。



3.近年、患者数が急増

1940年代に抗生物質のペニシリンによる梅毒の治療法が普及したことで、この感染症の拡大リスクが大きく減りました。

 

日本には、昭和23年(1948年)から梅毒の発生を報告する制度がありますが、昭和42年(1967年)の患者数1万1,000人をピークにその後は減少傾向を呈し、平成21年(2009年)には1000人を割っていました。

 

しかし平成22年(2010年)以降、患者数は増加に転じています。

特に平成25年(2013年)には患者数が1000人を超え、平成30年(2018年)は7,007人、令和3年(2021年)には7,978人(暫定値)と梅毒患者は急増し、令和4年(2022年)10月時点では10,000人を超える報告数になっています。

 

その年令分布では、男性では20代~50代、女性は20代が突出して増えています。

明確ではありませんが、海外観光客の増加やSNSなどを通じて不特定多数の相手と性交渉の機会が増えていることと関係があると推察されています。

<参照元>

厚生労働省 梅毒

厚生労働省の性感染症報告数

4.梅毒の症状の経過

先天梅毒では、早産や死産、出産しても新生児に奇形が現れることがあります。

後天梅毒は、感染すると経時的に症状が現れます。

後天梅毒の症状は、感染以降の期間によって3つに分かれます。

治療せず放置すると症状は進行していきます。

また経過中に症状が出ない時期もあり、他人への感染リスク状態が続きます。

1)第1期:感染後3週間~3ヶ月

感染した陰部や、口唇周囲、口腔内、肛門付近などに痛みを感じたり、しこりができます。

その後、しこりは、びらん、潰瘍に進みます。

また股のつけ根のリンバ節が無痛で腫れることがあります。

 

第1期では、治療をしなくても一定期間が過ぎると最初の症状は消えます。

しかし、梅毒トレポネーマは体内に残っています。

そのため、この時期の性的接触によって他人に感染するリスクがあります。

2)第2期:感染後数ヶ月~3年

梅毒を治療しないまま3ヶ月以上放置すると、梅毒トレポネーマが血液によって全身に拡散します。

そのため、体幹を中心に全身に赤い斑点(梅毒性バラ疹)が出現したり、また手掌や足の裏に皮むけをともなう赤い皮疹(梅毒性乾癬)が発生することもあります。

さらに、性器や肛門の周りに平らなしこり(扁平コンジローマ)や口腔内に口内炎のような発疹(梅毒性粘膜疹)ができることもあります。

これらの発疹は治療をしなくても一時的に消えることがありますが、梅毒トレポネーマは体内に残っていますので、その後も再発を繰り返します。

3)第3期:感染後3年~10年

この時期になると、皮膚、筋肉、骨などに腫瘍(ゴム腫)を発症します。

鼻の骨にゴム腫ができると、鼻が欠損してしまうこともあります(鞍鼻:あんび)。

また心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、最悪の場合は死に至ることもあります。

4)第4期:10年以降

梅毒の最終的なステージです。

血管や神経が侵され、動脈瘤(りゅう)、大動脈炎、進行麻痺(まひ)、脊髄癆(ろう)などの深刻な症状が現れます。進行まひは、中枢神経系が侵され、記憶力の低下や性格の変化が起こり、進行してまひを起こすものです。脊髄癆は、脊髄が侵されて痛みや運動失調が起こるもので、最悪の場合は死に至ることもあります。



5.梅毒の予防法

1)必ずコンドームを使う

梅毒の予防の基本は、性行為の際にコンドームを適切に使って、粘膜の直接接触を避けることです。

オーラルセックス(口腔性交)・アナルセックス(肛門性交)の場合もコンドームを使用しましょう。

 

2)パートナーを限定する

不特定多数の相手と性交渉を行うと、梅毒に感染したり感染させるリスクが高まります。

パートナーを限定することは梅毒の予防法の1つです。

 

なお、キスでも感染する可能性があるため、完全に予防することは困難です。

6.心当たりや不安があれば病院やクリニックを受診しましょう。

1)こんな場合はすぐに受診を

性的接触の後、何か異変を感じたり何らかの症状がある場合は、早めに医療機関を受診して診断してもらいましょう。

 

皮膚科や感染症科、また男性は泌尿器科、女性は産婦人科で診察を受けられます。

口腔内に異常が生じた場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

 

また、自分自身が梅毒に感染している場合や不安がある場合は、パートナーにも受診することをすすめましょう。

2)どんな検査をするの?

  1. 検査の概要

    一般的には、医師の問診や視診で症状を確認し、血液検査(抗体検査)を行います。

    医師が検査結果から感染の状態を正確に判断するために、問診には正確に答えましょう。

     

    また、病変から検体を採取して顕微鏡で観察する検査や、PCR検査が行われることもあります。地域によっては保健所などで匿名/無料で検査ができるところもあります。

    さらに、皮下に腫瘍がある場合には、患部より病変を採取して培養検査を行うことがあります。

  2. 血液検査は2種類

    梅毒の血液検査は、TP法(TP抗体検査)とRPR法(RPR抗体検査)があります。

    一般的には、梅毒の既往歴がなく、感染機会から2ヶ月以上経過していれば、「TP法」による検査だけで診断が可能です。

    一方、梅毒の既往歴がなく、感染機会から4週間以上、2ヶ月未満の場合は、「TP法」と「RPR法」による検査を行います。

     

    TP法の場合は、通常は診断結果は即日(約30分)でわかります。

    なお、TP法では1度でも梅毒に感染すると、一般的には生涯に渡って検査で陽性反応が出てしまいます。

    ですから梅毒の既往歴のある方は、感染機会から2ヶ月以上経過していたとしても、RPR法で検査をする必要があります。

    RPR法の場合は、結果がでるまで2,3日かかります。

     

    検査費用は、保険診療でも自由診療でも受けることができます。

    保険診療の場合は、診察代と梅毒の検査代の合計で2,000円前後です。

    一方、自由診療の場合は、医療機関により検査費用は異なりますが、おおむね7,000円〜9,000円程度です。

7.梅毒の治療

1)治療の基本はペニシリン系の抗菌薬

梅毒検査で陽性と診断された場合、つまり、梅毒と診断された場合には、通常、ペニシリン系の抗菌薬の内服や筋肉注射で治療します。

その他にもセフェム薬やテトラサイクリン薬、マクロライド薬が選択される場合もあります。

 

経口ペニシリン薬の服用期間は第1期であれば2~4週間、第2期であれば4~8週間の服用が目安です。

第3期になると、12週間服用が必要なこともあります。

もしペニシリンアレルギーであった場合、異なる系統の薬を処方します。

 

また2021年11月に、持続性ペニシリン筋注製剤のベンジルペニシリンベンザチンの1 回筋注療法が承認されています。 この治療は後期梅毒(感染から 1 年以上経過している場合)では 1 週ごとに計 3 回筋注します。

2)完治の判断は?

抗菌薬の服用がすべて終了後、1〜2ヶ月経過してからまたRPR検査を行います。

しかし、この時点でも完治したかどうか判断できない可能性があります。

そのため、原則として約半年間フォローをすることになります。

梅毒の治癒判定はほかの性感染症に比べると少し特殊で、定期的に採血検査を行い、RPRの数値の下がり具合で完治したかどうかを判断します。

<参照元>

梅毒診療ガイド(日本性感染症学会)



8.梅毒に関するよくある質問

Q1.一度梅毒になって完治したら、再発しないのでしょうか?

梅毒が完治しても、その後の性交渉などによる新たな感染を予防できるわけではありません。つまり、再発ではなく新たな梅毒の感染の可能性があるのです。

だから、コンドームの使用やパートナーの治療など、適切な予防対策を講じることが大切です。

Q2.梅毒に感染しているとHIVに感染しやすくなるって本当ですか?

はい、本当です。

梅毒に感染していると、HIVの感染リスクが高くなると考えられています。

また、HIVに感染していると梅毒の感染リスクが高くなります。

特に、梅毒によって性器に潰瘍性の深い傷がある場合は、重複感染の確率が上がります。

Q3.第3期以降では治療をしても手遅れですか?

手遅れではありませんが、治療期間が長くかかったり、症状が残ることがあります。

たとえば、梅毒トレポネーマ自体はコントロールできても、瘢痕(はんこん)や変形などの症状は完全には回復せず、動脈瘤などが残ることがあります。

 

Q4.お風呂での感染リスクはないのでしょうか?

基本的には、お風呂での感染リスクはありません。

皮膚の表面は皮脂膜や角質細胞間脂質などのバリア機能があるため、皮膚からはまず梅毒トレポネーマは侵入できません。

 

一方、粘膜には皮脂膜は存在せず、角質も薄いので侵入が容易です。

もし、肛門周囲に病変がある人が座った風呂椅子にすぐに座って肛門などの粘膜が接触した場合には、感染の可能性は否定できません。

しかし、風呂椅子に座る前に洗い流せばこの確率は低くなります。

このように、お風呂で梅毒に感染する可能性は極めて低いです。

Q5.まったく心当たりがないのですが、梅毒を思わせる症状があります。よく似た症状の病気はありますか?

乾癬やジベルばら色粃糠疹(ひこうしん)は、梅毒と似た症状が出ます。

乾癬は、皮膚の表皮が過剰に増殖を起こす病気です。

主な症状として、紅斑(こうはん)、皮膚の肥厚(ひこう)、鱗屑(りんせつ)、落屑(らくせつ)、かゆみなどの皮膚症状がでます。

 

ジベルばら色粃糠疹は、皮膚に赤い紅斑が無数に現れ、数ヶ月でなくなる皮膚の病気です。

 

このほかにも、梅毒と似た症状が出る病気があります。

まったく心当たりがなくても、こうした皮膚症状が出ている場合は、まず皮膚科を受診しましょう。

9.まとめ

梅毒の原因や症状と予防、検査、治療法までを幅広くご紹介しました。

 

梅毒は、梅毒トレポネーマという病原体による感染症です。

2009年までは患者数も減少していて、大きな話題になることはありませんでした。

しかし、ここ数年で患者数が激増しているため社会問題の1つとなり、厚生労働省や感染症関連の医学界から警鐘が出ています。

なぜなら、放置すると梅毒患者本人のQOLが下がるとともに、他者への感染リスクも高くなるからです。

梅毒は、病気に対する正しい知識や理解があれば、予防が可能です。

また、感染しても早く治療すれば完治が可能ですし、感染リスクも減らすことができます。

ぜひ、梅毒に対する正しい対策を行いましょう。

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